売上が増えても資金ショート!?節税しながらキャッシュを守る方法

「売上は右肩上がりなのに、通帳はいつもギリギリ」――中小企業経営者の方から、そんな声をよく聞きます。
売上が増えると、一見うまくいっているように思えますが、実際には資金繰りがどんどん苦しくなるケースが多々あります。
本記事では、そうした“売上先行型の資金ショート”を防ぐために、「キャッシュフロー経営」と「節税戦略」をどう組み合わせるかを、税理士の視点からお伝えします。
「利益が出ている=お金がある」とは限らない
これは中小企業に多い“錯覚”のひとつです。
たとえば、以下のような状況はよくあります:
- 決算書上は黒字なのに、現預金残高は減っている
- 税金や仕入の支払いが重なり、資金が足りない
- 設備投資や大口の売掛金で、キャッシュが寝ている
この背景には、キャッシュフローを軽視した経営判断があります。経営判断が「利益」だけに偏ると、「お金が残らない黒字経営」に陥るのです。
税務署は“帳簿の利益”に対して課税しますが、銀行や経営者が必要としているのは“現金残高”です。このギャップに気づかないまま節税だけを追いかけると、税金は減ったのに手元資金が尽きてしまうという矛盾にぶつかります。
キャッシュを守るために必要な“3つの視点”
1. タイミングのズレを把握する
仕入・家賃などの支出は「前払い」になりがちですが、売上は「後回収」です。このズレを埋めないと、いくら利益が出ていても資金が足りなくなります。
→ 解決策:資金繰り表(未来のお金の動き表)を作り、回収・支払タイミングを可視化しましょう。
また、支払サイトの見直し、分割払いの活用、売掛金の早期回収制度の導入などもキャッシュ改善に効果があります。
2. 税金の支払いも“固定費”と考える
決算期に慌てて「税金が払えない」となるのは、事前に積み立てていないからです。
→ 解決策:仮払法人税口座(別口座)を作り、毎月積立てておきましょう。これだけで資金ショートはかなり防げます。
税金は年に一度の「突発支出」ではなく、毎月発生していると仮定して扱うことで、資金の波を均すことができます。
3. 節税よりもキャッシュ優先で考える
節税のための投資(車や設備の購入)は、キャッシュを失う行為です。「税金を減らす」ことと「キャッシュを守る」ことは、必ずしも一致しません。
→ 解決策:節税の前に「この支出は今、本当に必要か?」を問い直す癖をつけましょう。
とくに、節税目的の無駄な支出(高額な備品、過剰な福利厚生など)は、将来的な利益回収が見込めない限り控えるべきです。
■ キャッシュと節税を両立させる4つの実践アプローチ
1. 設備投資は“減価償却”を見据えて判断する
一括で買うとキャッシュが減り、節税できても資金繰りが苦しくなります。分割やリースで支出を平準化することで、キャッシュへの圧迫を抑えつつ、節税効果を享受できます。
また、30万円未満の少額資産特例を活用すれば、即時償却が可能です。ただし、現金支出とのバランスを意識してください。
2. 節税のための支出に“投資性”を持たせる
節税しながらキャッシュを守るには、「将来の利益につながる支出」に限定することが大切です。
・WEB広告(継続的集客)
・採用コスト(人材の定着化)
・仕組み構築(マニュアル、業務フロー)
このような支出は、経費として落ちるだけでなく、将来の売上・粗利率改善につながります。
3. 退職金の計画的活用
中退共など外部積立型の退職金制度は、将来的なキャッシュアウトに備えつつ節税にもなります。
ただし、無理な賞与や制度導入は返って資金繰りを圧迫します。シミュレーションの上で戦略的に活用しましょう。
4. 売掛金と棚卸資産の圧縮
利益は出ているのにキャッシュが残らない最大の原因の一つが、「売掛金の増加」と「在庫の膨張」です。
→ 売掛回収のルールを明確化し、在庫管理を定量的に見直すことで、キャッシュフローは劇的に改善します。
■ まとめ:税金を減らす前に、まず“お金を守る”仕組みを
節税だけに目を向けると、キャッシュの流出を見落としがちです。
- 利益を出してもお金が残らない
- 税金は減っても通帳が空っぽ
- 支出のタイミング管理ができていない
こうした経営状態は、早晩資金ショートという危機を招きます。
本当に必要なのは、節税とキャッシュフロー管理を連動させた経営設計です。そのためには、
- 資金繰り表と月次決算の導入
- 利益率と回収サイクルの改善
- 将来につながる経費設計
これらを仕組みとして組み込むことで、売上が増えても資金ショートしない、健全な利益体質を実現できます。