社長が知っておくべき『お金が残らない』本当の理由

「うちは黒字なのに、いつも資金繰りが苦しい。なぜだろう…?」
これは、実に多くの中小企業経営者が抱える“素朴で深刻な疑問”です。売上は伸びている、利益も出ている。それなのに、手元のお金はなかなか増えない。経費の使い過ぎかと見直してもピンとこない。そんな時に見直すべきは、「利益」と「現金」の違い、そして「お金が減っていく構造そのもの」です。
この問題を放置していると、利益が出ているのに倒産する“黒字倒産”につながるリスクすらあります。
本記事では税理士の視点から、「なぜお金が残らないのか?」という構造的な問題と、その解決策となる節税と資金管理の考え方を、わかりやすく解説していきます。
「売上が伸びている=お金が増える」は幻想です
まず、経営者の多くが無意識に持っている誤解が、「売上が伸びれば、お金も増えるはずだ」という感覚です。しかし、これは経営の現場では成立しません。
なぜなら、売上は会計上の数字であり、現金ではないからです。特に売掛金での取引が多い業種では、売上が急拡大するほど、「まだ入ってきていないお金」が増えていきます。
実際にお金が入ってくるまでにはタイムラグがあります。その間にも、仕入れや人件費、家賃、光熱費、さらには税金の支払いなど、現金はどんどん出ていきます。
つまり、売上が伸びると同時に、支出のスピードとボリュームも増すのです。その結果、「売れているのにお金が足りない」という矛盾が起きます。
この錯覚は、多くの社長にとって落とし穴です。「売れているから大丈夫」という気の緩みが、結果的に資金繰りの悪化を招き、資金不足が表面化したときにはすでに遅いというケースも珍しくありません。
「利益=お金が残る」ではない
もうひとつの誤解が、「利益が出ていれば、手元にお金が残るはずだ」というものです。
これは、税務上の「利益」と、実際の「キャッシュフロー」の間に大きなギャップがあることを理解することで、はじめて解消されます。
たとえば以下のような要因が、利益はあるのにお金が残らない原因です:
- 売掛金の増加(入金前の売上)
- 在庫の増加(まだ売れていない商品)
- 設備投資(お金が出ていくが資産計上される)
- 借入返済の元本部分(経費にはならないがお金は減る)
- 法人税等の納税(利益に対して課され、経費にもならない)
特に注意したいのは、「黒字化→納税増→キャッシュ減少→資金ショート」という悪循環です。節税をせずに放置すれば、税金として現金がごっそり出ていくことになります。
さらに、役員報酬の増額や、従業員への決算賞与なども、「利益は減って納税額が減るが現金も出ていく」という典型的なパターンです。数字だけで見れば節税に見えても、キャッシュフロー的には悪化要因になることもあるのです。
お金が残らない経営の特徴とは?
お金が残らない会社には、いくつかの共通する特徴があります。
(1) 損益計算書(P/L)だけを見て経営判断している
損益計算書は「儲けの記録」であって、「お金の流れ」を示すものではありません。毎月の試算表で利益が出ているから安心、というのは非常に危険な思い込みです。
経費削減も利益率の向上も、数字の上では評価されやすい一方で、それが実際の現金残高にどう影響しているかを見落としてしまっては本末転倒です。経営は数字で測るものですが、見るべき数字を間違えてはいけません。
(2) 貸借対照表(B/S)を見ない・読めない
貸借対照表は会社の“体力”をあらわす表です。ここには、売掛金・在庫・借入金・現金残高など、会社の資金の動きと蓄えの全てが記されています。これを読まずにお金の流れを把握するのは無理があります。
特に中小企業の経営者には、貸借対照表を「経理部のもの」「会計士が見るもの」として敬遠しがちです。しかし、ここにこそ、未来の資金繰りを改善するためのヒントが詰まっています。
(3) 「節税=支出」としか捉えていない
決算間際に保険や高額な機械を購入して節税する、という行動を毎年のように繰り返していませんか?これは一時的な税金対策にはなっても、根本的なキャッシュ改善にはつながりません。むしろ現金が減っていく原因になります。
節税をするなら、税金が減ること以上に、「その支出がどんなリターンを生むのか?」という視点を持たなければ、本当の意味での経営改善にはなりません。
資金繰りと節税はセットで考えるべき
「税金を減らしたい」という気持ちは当然ですが、それ以上に大事なのは「会社にお金が残ること」です。
節税だけに注力すると、目の前の税金は減っても、事業の成長に必要な現金が不足し、本末転倒の結果になります。そこで大切なのは、“資金繰りと節税はセットで考える”という視点です。
つまり、こう問い直すことが重要です:
- この節税策は、将来のキャッシュにどう影響するか?
- 今この投資は、1年後の資金繰りを圧迫しないか?
- 税金を払ってでも、お金を手元に残した方が良いのでは?
こうした問いを繰り返すうちに、「節税ありきの経営」から、「資金を活かす経営」へと、視点が一段深まっていきます。
まとめ:「社長の数字の見方」が会社を救う
お金が残らない最大の原因は、経営者が「キャッシュの流れ」を正確に把握できていないことにあります。
・売上=キャッシュではない
・利益=キャッシュではない
・節税=お金が残るとは限らない
だからこそ、貸借対照表を読む力と、税務と資金繰りを一体で考える視点が、今後の経営には必要不可欠です。
「お金が残らない会社」から「利益も出てお金も残る会社」へ。その転換は、“数字の見方”を変えることから始まります。